「よし、ピカピカに仕上がったな」
(ねえ、もう一人のボク。他にやることがあるんじゃない……?)
「何を言ってるんだ、身だしなみを整えるのだって、立派な準備だぜ」
バラバラの空間へ飛ばされた自分達、そこに襲いかかってきた無数の敵と魔王アナゴ直属の刺客。
それでも、信頼と結束の力でそれらを退け、奇跡的にも誰一人として失う事なく再び仲間達と合流を果たした。
しかし、誰も彼も見れば見るほどボロボロで、中枢へ向かう前に休息と準備を行うことになった。
(いや、ピコ麻呂さんは買出しに行ったり、女性陣は洗濯をしたりしてるんだけどなぁ……)
ひたすらにシルバーを輝かせることに夢中になっているもう一人の自分を見ながら、遊戯はため息をついた。
無駄とはわかっていても、彼をこのままにしておくと一日中シルバー磨きで終わってしまいそうだ。
(あれ?)
しかし、ジャラジャラと騒々しい音はピタリと止んだ。
不思議に思った遊戯は、自分の魂を少し身体から出して外の様子の眺める。
もう一人の自分の手は止まり、その視線は少し離れたところで機械を整備している海馬の方を見つめていた。
そこには、洗濯を終えたのであろう女性陣が海馬と何かを話している。
箒にブースターがどうのと大きな声で海馬に突っかかっている金髪の女性。
いつも付けているヘッドマイクがなく、どこか新鮮な感じがする緑色の髪をしたボーカロイド。
そして、青い髪の一分がはねている周りよりもやや低めな身長の……。
(こなたさんを眺めてたの、もう一人のボク?)
「おわっ!?」
突如かけられたもう一人の自分の声に、谷口のような声をあげて、洗浄液の入ったバケツを蹴飛ばす。
かろうじて中身がこぼれることはなかったが、ぶつけた痛みにしばらく悶絶する。
「い……いきなり何を言い出すんだ相棒!?」
(あれ〜、どうしてそんなに慌ててるの。もう一人のボク?)
「べ、別に慌ててなんかないぜ。ただ、いきなり声をかけられてびっくりしただけだ!」
滅多に見せることのないもう一人の自分の表情を楽しく思いながら、遊戯は話題を変えた。
(でも、もうすぐ終わるんだね……)
「ああ……そうだな」
魔王に相棒を奪われ、絶望にくれていた俺の前に彼らは現れた。
蟲野郎を蹴散らし、なんだかんだで海馬も手を貸してくれた。
魔王に挑むまでにも多くの強敵が立ちはだかり、そして、ついに魔王を倒し俺は相棒を取り戻した。
だが、そんな俺たちの前に突きつけられたのは更なる絶望の未来……。
俺達はそんな未来を止めようと懸命に前へと進んでいる。それは、とても過酷で、辛くて、悲しい道。
それでも、この出会いは嬉しいもので、彼らはかけがえのない仲間だ。
しかし、出会いがあれば、その後には別れが訪れる。
平和が訪れるということは、彼らとの別れにほかならない。
そして、俺は予感している。そう遠くない未来に訪れるであろう相棒との……。
「相棒は……皆と一緒にいたいか?」
(……もう一人のボク?)
「いや、なんでもない。さて、シルバーも大事だけどこっちの方もなまるわけにはいかないからな!」
海馬が最優先で修理してくれたデュエルディスクを腕に装着する。
我が身を守るためにスクラップ寸前であったそれは、新品同様にまで修理されていた。
「いくぜ相棒! 今度こそ海馬に勝つぜ」
(……うん、もう一人のボク!)
この仲間達とも、相棒ともいつか別れは訪れるのだろう。
だが、別れを惜しみ、恐れるのではなく、残った時間をいいものにしていこう。
「海馬、息抜きがてらにデュエルしようZE☆」
「ああ、いいだろう。俺は貴様から逃げはしない!」
――デュエル終了後
「おーい、王様。生きてるー?」
(なぁにこれぇ)
「り、理不尽なんだZE」
武藤遊戯:レベル23 ドーピング無。
海馬瀬人:レベル50 MHP999 MMP999。
「まあ、プレイヤーに愛されない宿命ってやつだね」
(ちなみに、泉さんも海馬くんと同じステータスだね)
「このドーピング野郎達! うわぁぁぁん(泣)」
処女作「栄光の寄り道」の別視点ものです。なんとなく原作の遊戯を表現しました。そして、私的ゲーム中使いにくいキャラ上位です(苦笑)
2010/06/03